製紙段階で使われる化石燃料はかなり削減され、80年代と比べると約半分まで来てる話
製紙段階で使われる化石燃料はかなり削減され、80年代と比べると約半分まで来てる話
写真は、苫小牧の製紙工場です(画像出典:Wikipedia│作者pakku)。製紙工場と言えば、どこでも高い煙突と煙モクモクが当たり前の風景です。化石燃料をたくさん使うことで知られていました。しかし、最近は化石燃料の削減が非常に進んでいます。企業努力が凄いです。
そもそも製紙業界はエネルギー多消費産業
木から紙を作る手間というのは、大変なものです。
まず原料チップを細かくし、それを高温・高圧で煮ます。高温・高圧が必要な理由は、樹脂を溶かす必要があるからです。繊維を取りだしたら、洗浄して異物を取り除き、残った樹脂を酵素で分解します。それを漂白してようやく原料パルプの完成。
ドロドロにした原料パルプを薄く伸ばし、プレスして蒸気で過熱し乾燥させると紙になります。コート紙などの塗工紙の場合は、さらに表面に処理を施し、熱で乾燥させます。
これを見てもわかる通り、すべての工程に熱と水をたくさん使うので、化石燃料が欠かせないのです。「製紙業界はエネルギー多消費産業である」と日本製紙連合会も公開資料の中で表現しています。
80年代から化石燃料の削減に取り組んできた
しかし、日本の製紙業界は80年代初頭から化石燃料から非化石燃料への転換を試みてきました。気候変動に関する国際連合枠組条約が起草されたのが1992年のことなので(1997年、第3回締約国会議で採択されたのがいわゆる京都議定書)、かなり早い段階から取り組んできたことになります。
非化石燃料への転換の原動力となったのは、1970年代終わりに始まって1980年にピークを迎えたオイルショックの影響でしょうが、製紙業界は着実に化石燃料削減を実現してきたのです。
2018年には熱量構成の約半分が非化石燃料に
『製紙産業における地球温暖化対策の取り組み』(日本製紙連合会/2001年1月13日)によると、次のようにあります。
化石エネルギー原単位は政府の石油等消費動態統計が始まった 1981 年を基点にすると、 1990 年にはすでに約 74%まで削減されており(図 1)、限界に達しつつあった。 しかし、一層の努力をすれば 1990 年度に対して 2010 年度は 10%削減可能との判断で、1997 年1月にこれを目標として制定した。
上のリンク先資料にある推移グラフがこれです。京都議定書の7年も前に、既に73.5%まで削減していて、「1990年には限界に達しつつあった」のに、その後もずっと削減を続けています。
現在、製紙業界全体では約半分が非化石燃料への転換が実現しています。
非化石燃料とは、木材パルプの製造工程で出る廃液「黒液」を使ったバイオマス、製紙工程で出る繊維の有機ゴミ「ペーパースラッジ」、古紙と廃プラスチックからなるRPFや廃タイヤです。
代替燃料として、製紙工程で出る廃材を利用しているところが、非常に効率的です。
世界と比較しても、日本の製紙業界は進んでいる
国際エネルギー機関(IEA)のレポートでも、日本の製紙業界は省エネポテンシャルが飛び抜けて低いことを示しています。
つまり、既に省エネ化されているということです。対して、アメリカ、カナダ、ロシアのポテンシャルがとても高いです。
出典:『紙パルプ産業のエネルギー事情』日本製紙連合会技術環境部(2018年12月)
2019年9月、気候変動サミットに合わせて日本の火力発電を非難するデモが世界各地で開かれました。それはよいのですが、石炭だけを切り取って日本全体を責めるのはフェアではないでしょう。
ものごとは単純化すると目が曇ります。製紙業界のように優れた結果を示している部分は評価されていいはずです。
なお、エネルギー構成比における石炭発電の割合(2017年IEA発表の数値による)に限って言えば、日本は33.2%、アメリカは31%、ドイツは39%、韓国は45.4%、中国とインドに至ってはそれぞれ67.9%、74%です。なぜ、ニューヨーク国連本部前にピカチュウだけ並ぶのか解せませんね……。
紙はエコ!とは言わないが、日本の紙は優秀
紙だからエコというのはものごとを単純化する最たる例なので、このコラムでは断定を避けています。
しかし、「日本の紙は世界の製紙メーカーの紙と比べてエコ」というのは言ってもいいかもしれません。
製紙業界シェア1位の日本製紙、2位の王子製紙は供に、環境問題に対してトップランナーと言える取り組みを行っています。近年では、森林保全の取り組みに力を入れています。王子製紙は森林保全に90億円かけているんですよ。
毎年CSR報告書がアップされるので、興味がある方は見てみてください。
製紙業界を讃えたくなりました
再生紙云々はわかりやすい話なのですが、企業様は紙の製造工程の化石燃料についても着目してみるとよいと思います。日本製の紙を使うことがエコになるという考え方もあるでしょう。日本の製紙業界の取り組みはかなり凄いのにあまり取りあげられていないので、ネチネチ書いておこうと思った次第です。日本製紙さんからも王子製紙さんからも、宣伝費はもらっていません。
本記事はあくまで一個人の主観に基づいて書いており、社会的なメッセージや啓発のつもりは一切ございません。
井上紙袋は特定の思想・心情を偏向的に支持することはいたしません。本記事に対するお問い合わせはご遠慮ください。
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